埼玉新聞「月曜放談」
2005年(平成17年)5月16日(月曜日)
椎茸と子供達
 スーパーの店先には、様々な野菜が季節を越えて並んでいる。椎茸も、一年中、旬の顔で並んでいる。店員さんに旬はいつかと尋ねると、「え、椎茸に旬があるの?」と返された。
 椎茸づくりは、桜の花の咲く頃が忙しい。「コン・コン・コン、コン・コン・コン」とおおたかの森作業場から軽快な音がする。大人達が森から切り出したコナラの木にドリルで穴を開けると、子供達は木槌を持って、椎茸菌がいっぱい付いた小さな駒を打ち込む。そのうち勇気のある子は、ドリルで穴あけに挑戦する。特に春休みは人気が高く、子供から直接「明日ボランティアはありますか」と電話がある。
 埼玉県西部の武蔵野台地には、江戸時代に作られた平地林が、かつての十分の一の面積で残っている。ここを次世代の子供達に引き継ぐため「おおたかの森」と名づけた、里山の保護・保全活動「おおたかの森トラスト」が十二年になる。
 この地方では、冬、休眠状態に入ったコナラ、クヌギなどの落葉広葉樹を切り出し、薪や炭にして生活の糧にしていた。春が来ると、切り株は芽を出し、十年から二十年で若い木に変身する「萌芽更新」が行われた。地主さんは、自然の回復力が落ちないように管理をしてきたが、燃料がガスや電気になると、林に変化がおきた。
 木の種類が多いと虫の種類も多くなる。おまけに若い木と年老いた木、明るい所と暗い所では生物も違う。萌芽更新を行うと、植物が変化に富み、鳥、虫、菌類へと種の多様性が増す。おおたかの森では、毎年萌芽更新を行い、切り出した木で炭や椎茸を作り、売ったお金は森の購入資金に充てる。太い木から出る椎茸は、子供の顔ほどもあり味も最高だが、気温と湿度の関係で収穫は春と秋の二回。椎茸が出なくなった木を森に返すと、クワガタの母さんが卵を産みにやって来て、三年目にクワガタが誕生する。
 子供たちは椎茸やクワガタが欲しい、それだけではない。クワガタが増えれば、餌としているフクロウたちが森に戻ってくれる。多くの生き物が地球上から姿を消している今、人間は生物を創り出せないが、大切な自然を残し、多くの生物が棲めるような手助けをしたい、と子供達が感じているからに違いない。(おおたかの森トラスト代表:足立圭子)
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