埼玉新聞「月曜放談」
2005年(平成17年)6月27日(月曜日)
枯れた松で川を蘇らせよう
 我が家は所沢市と狭山市の境にある。緑に囲まれた軽井沢のような景色のとりこになり移り住んで早三十二年。春、暖かくなると、セミの声が聞こえてくる。「季節はずれのセミしぐれ」とテレビで報道されることもあるが、春から初夏にかけて鳴くハルゼミで、松林を生活の場としている。
 三十年前の森の木は、コナラより赤松が多く、枝ぶりもよくどっしりとしていた。近年、赤松が枯れると同時に、ハルゼミの鳴き声も少なくなったことが寂しい。今、森のいたる所で、立ち枯れて倒れそうになったものや朽ちて横たわった赤松の無残な姿が目につく。
 「枯れた赤松で炭を作ろう。そして汚れた川に炭を入れてきれいにしよう」と、おおたかの森トラストが活動を始めて十一年。森は個人の所有で勝手に入ることはできないので、森を借りて赤松を運び出し、炭焼きを始めた。腐った木は水を含んで重い。太いままでは上手く炭にならないので短く切ってマサカリで割り、炭窯に並べて詰め込む。燃料はもちろん枯れた赤松。薪割りが炭焼きの第一歩である。
 枯れたばかりの松には、「マツノマダラカミキリの幼虫とその寄生虫のマツノザイセンチュウ」がいて、翌年には成虫になって飛び出し、また他の松を枯らしてしまう。人の手さえあれば、枯れた赤松はあちらこちらにゴロゴロしているので、材料は簡単に手に入り、炭焼きをすればするほど松の害虫を処理できる。
 枯れた松で作った炭は隙間が多く柔らかい、火持ちが悪いので焼き鳥の燃料には向かないのが、川に入れると、小さな生物が隙間に住み着き、流れてくる汚れ(栄養)を食べて水をきれいにしてくれる。埼玉県の川は、源流が県内にありながら、湧き出たきれいな水をわずか数キロメートルで汚し、飲めない水にして下流へ、そして海に流している。汚れの原因の一つは生活雑排水と言われているが、生物が棲めないコンクリート護岸も大きな要因になっている。
 もうすぐ海の日。毎年海の日には子供と大人が協力し、所沢市内を流れる砂川堀の一ヶ所で、川に入れた炭を取り出し、新しい炭に入れ替える。なぜ、一ヶ所だけ?市の担当者が勇気を出して許可してくれたらから。森と海は川でつながっている。市民が動けば行政も動くはず。あなたも周りの川を見直して。(おおたかの森トラスト代表:足立圭子)
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