埼玉新聞「月曜放談」
2005年(平成17年)12月5日(月曜日)
急がれる環境税による公有地化対策
 私は、東京大空襲の時、生後三ヶ月であった。九十四歳の母は「空襲警報がなると、圭子を急いで、防空壕の中のたんすの引き出しに入れたが、おとなしくしていた」と、今でも話す。その影響か、戦闘機の音を聞くと戦争の恐怖が頭をよぎる。
 日本は、国土を守るために、毎年、国民総生産の約1%を防衛費に充てている。しかし、わが国の自然の源である「森や湿地の国土を守る」ための買い取りの予算は微々たるもので、久しぶりにふるさとに戻ったら、緑がなくなっていたことを、多くの人が経験していると思う。
 埼玉県民の宝である「武蔵野の平地林」は、三百五十年前この地に住み始めた人々の手によって作られ、農業と共に守り育てられてきたが、かつての十分の一の面積に減ってしまった。個人の所有地なので、相続税の財産分与に関わり森を売却することが多い。
 売却されるとあっという間に森は消え、生き物がいなくなる。地球温暖化や野生生物保護の啓蒙活動が各地で開催されているが、「自然を守りましょう」のかけ声だけでは解決しない。
 私達は今、狭山市が公有地化した堀兼・上赤坂の森で、狭山台みどり幼稚園児たちと一緒になって、生き物がたくさん棲めるように、ヒノキの人工林を雑木林に変える活動に取り組んでいる。三才児までもが、小さな手でノコギリを使いヒノキを切り倒し、枝払いもしている。
 企業も行政も社会的責任が問われている現在私達は、これから生まれてくる子供たちへ豊かな自然環境を引き継いでいく社会的責任を持っている。上田知事は、マニフェストで「みどりの環境税」の導入を公約した。知事が委嘱した環境税制の検討委員会は、次世代に引き継ぐ大切な平地林や湿地等の公有地化財源にすべき、と提言している。
 先般、県の緑のトラスト候補地に挙げられた「狭山市堀兼・上赤坂の森」では、物納された四ヶ所が公売にかけられ、開発されようとしている。自然環境を確実に守るため、環境税による公有地化対策が急がれる。上田知事のリーダーシップに期待したい。
(おおたかの森トラスト代表:足立圭子)
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